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Edge2 今を、いきる。
第28回 別世界への扉 ワンダー
放送日:9月30日(土)
出演:穂村 弘(歌人)
演出:田島 櫻子
制作:テレコムスタッフ
1990年、叙情を超越した卓抜な言語感覚で歌壇にデビューした穂村 弘。視覚的なイメージを駆使する、ポップでドライな穂村の作品は、現在に至るまで、現代短歌に衝撃を与え続けている。
穂村はまた、月10本以上の雑誌連載を抱える人気エッセイストでもある。現実との違和感を、短歌およびエッセイにストレートに表現する穂村。生身の自身が生活している「現実」ではなく、自意識がつくり出す「別世界」への扉を穂村は日々、発見し続ける。穂村が「ワンダー」と呼ぶ、別世界への扉とは何か。短歌を通して「世界」と対峙する穂村の姿を追う。
『ワンダーランドからの帰還』
撮影最終日の夜、私たちは、西荻窪の交差点で穂村さんを見送った。すこし寂しかった。それは、夜のせいでも別れのせいでもなかった。
交差点を歩いて帰る穂村さんの姿が遠くなるにつれ、私の目の前には、むくむくと「現実」」が膨らみはじめ、しまいには、いつもの見慣れた聞きなれた「リアルワールド」が、「ワンダーランド」を埋め尽くしてしまった。撮影を終えて、「ワンダーランド」から帰還してしまった、「現実」に戻ってしまったことが、寂しかったのである。
日々、私たちが息をし、食べ、眠り、笑い、泣き暮らすこの地上世界に、もし生きる意味があるとすれば、それは、「見たことのないものを見るため、それはワンダーではないのか」と、穂村さんは言った。
そして「ワンダー」は、けっして穂村さんだけの特殊な世界ではない。
例えば、この世の中で、現実に対し完全に満足している人はいないだろう。
でも、その不満足な現実を見つめたり、それを乗り越えるための努力をしている人はけっして多くはない。私の場合は、ただ忙しくしたり何かに夢中になることで気持ちをごまかしているだけだ。
穂村さんは、「現実」に対する不全感が強い分、「世界」に対してひと一倍期待感が強い。現実には不満足でも、その不満足を補って余りある世界への期待感がワンダーなのだ。
それは、まるで生まれたばかりの赤ん坊が、はじめて世界を見つめるような、ピュアで不思議な感覚世界だ。
穂村さんとのワンダーランドへの旅で、私が気づいたのは、「現実」を包含する、この「世界」には、まだまだ見たことのない、
「ワンダー」がたくさん眠っているということ、赤ん坊の目で見たらこの「世界」には数え切れないほどの驚異と美しさがあるということ。
因みに、穂村さんにお会いするまで、私は、非常に緊張した心持ちだった。というのも、穂村さんのエッセイには、穂村さんご自身が、自意識の強さに悩んでいたり、他人とのコミュニケーション全般が苦手だという告白が、度々なされていたからである。
どちらかというとガサツな人間である私は、繊細で頭脳明晰な男性にどのように対面するべきか、私なりに悩んだりしたわけなのだが、実際にお会いしてみたら、何ともふんわりした雰囲気の男性だった。
ともすると、穂村さんの歌集に出てくる「手紙魔まみ」がつけた「ほむほむ」というニックネームで呼んでしまいそうなキュートさだった。しかし、撮影期間中、残念ながら、一度も「ほむほむ」と呼んだことはなかった。
いつか「ほむほむ」と呼ばせていただきたい、
そしたら、穂村さんはどんな顔をするのだろう?……。
Director 田島櫻子
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